「AI」という言葉は、20世紀から語られてきた人類の夢の一つであった。そして、2022年のChatGPT 3.5の登場は、まさにその夢を一気に現実へと引き寄せ、世界中でAIブームを巻き起こした。

しかし、この爆発的なAIの進化の裏には、ある特定の企業の存在が不可欠であった。それが、NVIDIAである。

AI進化の立役者、NVIDIAのGPU

ChatGPTをはじめとする現在の高性能なAIモデルが実現できた大きな理由の一つは、NVIDIAのGPUによる桁外れの演算能力にある。裏を返せば、NVIDIAのGPUがなければ、これほどまでのAIの爆発的な進化は起こらなかったであろうし、高性能なAIの構築には今やNVIDIAが必須とされている。

もちろん、NVIDIAだけが潤う状況を良しとしないのは当然である。長年のライバルであるAMDはもちろんのこと、Google、Amazon、Meta、Apple、MicrosoftといったGAFAMは、高価なNVIDIA製品に依存することなくAIを進化させるべく、独自GPUの開発を急いでいる。しかし、現時点ではNVIDIAに追いつける気配はほとんどない。

その証拠こそが、NVIDIAの株価である。現在、NVIDIAは時価総額で世界一を誇る。もし、GAFAMがNVIDIAに追いつける、あるいはNVIDIAの優位性を覆せる要素があるのであれば、このような株価にはなっていないはずだ。

NVIDIAの牙城は崩せるか?

もちろん、NVIDIAのGPUがなくてもAIを開発できるように、言語モデルを小型化したり、より最適化したりする研究は盛んだ。しかし、結局のところ、汎用性が高く、高品質なAIを開発するには、現時点ではNVIDIAのGPUが不可欠である。

結局、GAFAMを含め、AIビジネスを本格的に伸ばそうとしている企業は、NVIDIAのGPUを大量に購入し、活用することが不可欠なのが現状なのだ。

大規模投資が必須のAI開発

NVIDIAのGPUは非常に高価であり、大規模なAIモデルを開発・運用するには、莫大な初期投資が必要となる。GAFAMレベルの購買力を持つ企業でなければ、AIの主要ベンダーとして競争に加わること自体が困難な状況だ。

GAFAMよりも購買力で劣るSalesforceやIBMといった企業が、AIビジネスのど真ん中でGAFAMに打ち勝つ要素は少ないと言わざるを得ない。繰り返すが、現状のAI開発における勝負は、NVIDIAのGPUを購入する力、すなわち資金力が決定的な要素となっている。

日本のAI開発の厳しい現実

ここまで長い話になってしまったが、では日本のAI開発の現状はどうだろうか。

ChatGPTをはじめとするGAFAM系のAIが提供するAPIを利用してビジネスを展開することは可能である。しかし、これは結局のところ、GAFAMが儲かるモデルであり、日本の企業がAIそのもので競争優位を築くことには繋がらない。

日本企業のNVIDIA GPU購買力は、残念ながらGAFAMとは比較にならないほど低いのが現実である。この状況でGAFAMと渡り合うには、相当な工夫が必要だ。しかし、GAFAMも手をこまねいているわけではなく、日々、莫大な予算と優秀な人材を投じてAI開発を進めている。

このままでは、日本企業がGAFAMにAIで勝てる気はしない。

ゲームチェンジへの期待と課題

AI分野で勝利を収めるには、現状のルールを覆すような「ゲームチェンジ」が不可欠である。

その一つの可能性が、「NVIDIAのGPUを使わなくても高性能なAIが開発できる技術」の確立だ。しかし、これもまた、GAFAMが巨額の予算を投じて研究開発を進めている領域であり、日本企業がどうやってそこで優位に立てるのか、特別なシナリオが求められる。

もう一つの、遠い可能性として挙げられるのが「量子コンピューター」である。しかし、これもまだまだ実用段階には程遠く、仮に実用化されたとしても、NVIDIAが不要になる保証はない。むしろNVIDIA自身も量子コンピューターの研究を進めているはずだ。


結局のところ、現在のAI開発は、資金力が決定的な要素となっている。日本がこの波の中で独自の強みを見出し、世界と渡り合うためには、これまでとは全く異なるアプローチと、それを支える大胆な投資が必要不可欠と言えるだろう。